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第一章 与える人
茉莉が小さいころ、祖父が亡くなった。
核家族で育ち、父母の生まれ故郷から遥か遠い所に住んでいた茉莉の心には、悲しみは
無く、お葬式の時、お経がどうしても野菜の名前に聞こえた茉莉は、くすくすと笑って
いた。
でも、大人になるにつれ、あの日のことを思い返すようになった。
あの時、誰も、お経を笑っていた茉莉を咎めなかった。
咎める元気もないくらい、憔悴していたんだ。
そうなんだ、祖父は、みんなから愛されていたんだ。
祖父への思慕は、少しずつ少しずつ身長が伸びて大人になって行くように、茉莉の中
で芽吹いていった。
茉莉の心の中に、生前元気だった頃の祖父と観光地で戯れた短い記憶が残っている。
両親は最後の親孝行のつもりで祖父を自宅に誘って、一緒に旅行に出かけたのだろう。
ほんの小さな茉莉も、そこに同行していた。
その時の祖父との会話は覚えてはいない。
茉莉の記憶の中に在るのは、青空と、桜の青葉と、茉莉の赤い服と、祖父の満ち足りた
オーラ。
けれどその先の、記憶のない記憶を辿るとき、祖父が放つ温かい塊に包まれて、茉莉は
安らぎを感じた。
大人になって、茉莉はわかった。
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