第一章  与える人

1/3
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

第一章  与える人

 茉莉が小さいころ、祖父が亡くなった。 核家族で育ち、父母の生まれ故郷から遥か遠い所に住んでいた茉莉の心には、悲しみは 無く、お葬式の時、お経がどうしても野菜の名前に聞こえた茉莉は、くすくすと笑って いた。 でも、大人になるにつれ、あの日のことを思い返すようになった。  あの時、誰も、お経を笑っていた茉莉を咎めなかった。 咎める元気もないくらい、憔悴していたんだ。 そうなんだ、祖父は、みんなから愛されていたんだ。  祖父への思慕は、少しずつ少しずつ身長が伸びて大人になって行くように、茉莉の中 で芽吹いていった。  茉莉の心の中に、生前元気だった頃の祖父と観光地で戯れた短い記憶が残っている。 両親は最後の親孝行のつもりで祖父を自宅に誘って、一緒に旅行に出かけたのだろう。 ほんの小さな茉莉も、そこに同行していた。 その時の祖父との会話は覚えてはいない。 茉莉の記憶の中に在るのは、青空と、桜の青葉と、茉莉の赤い服と、祖父の満ち足りた オーラ。 けれどその先の、記憶のない記憶を辿るとき、祖父が放つ温かい塊に包まれて、茉莉は 安らぎを感じた。 大人になって、茉莉はわかった。     
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!