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藍の海に溶ける
先輩の所作はたいへん静かで美しい。授業を受けているときも、食事をしているときも、中庭を歩いているときも、その一挙一動が比類なき優雅をまとっている。まるで赤ん坊の肌に触れるかのように本のページをめくり、まるで世界から音が消えたかのように、優しく地面を踏み歩く。
すらりと伸びる手足は、透き通るほど白く、瑞々しい。照りつける夏の太陽に茹だる様子はこれっぽっちもなく、いつもひんやりとした冷たさに包まれている。
ーーーー優しく、雅やかで、そしてどこか儚い。
あらゆるものに慈しみをもって接しているかのような、そんな先輩の立ち居振る舞いは、確かにため息が出るほど美しい。しかし同時に、ふとした瞬間にこの世界に溶けてなくなってしまいそうな、そんな儚さをはらんでいるその姿は、そこはかとなく藍色のかなしみに満ちていた。
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