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(無題)
「手、冷えてるんでしょ。赤くなってる」
「雪だからねぇ」
きみは分かっているはずのことを聞くよねぇ、とその顔が伝えてくるけれど、くじけずに重ねた。
「……カメラ大丈夫なの」
「防水、防水」
さっくりと返しながら彼女がカメラを構えるので、僕は邪魔にならないように話しかけるのを止めた。何を話せばいいのかは分からないまま。
トレードマークの丸メガネからファインダーをのぞく彼女を横目でこっそりと見る。コートにもマフラーにも髪にも雪が着いている。
テンポ良く続くシャッターの音が、今日はあまり響かないような気がする。雪のせいかな。
(今朝はいつから撮ってたんだろう)
昨夜から続く雪で眼下も白い。この高台にはよく来ていたけれども積もるのは珍しいので、散歩がてら見に来てみた。案の定の先客だ。すっぽりと雪雲が覆う白のなか、彼女の姿が映えていた。
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