涙の理由

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「これから読経ですが...ご一緒にいかがですか?」 「あ……はい」 断る理由もなく いや・・・寧ろこちらからお願いしたい 自然にそう思った 本堂に入るとなるべく隅に座る 何度も“近くへ”と促されるも やんわり断ると 住職は御本尊の前で 大きなリンを鳴らした ゴーン、ゴーン 心の奥底に届くような音 それに続いて低く響く声が耳に届く 何故だか分からないけれど胸がいっぱいになり頬を涙が伝った 夫の事で霞のかかる心が 洗われるようで ただ・・・無心に手を合わせ 落ちる涙を拭いもせず ずっと住職の背中と御本尊を見つめていた 。 やがて……リンが大きく響くと 住職がゆっくりと振り返った 「・・・っ」 少し見開いた瞳は こちらの涙に気付いたからだろう 「ありがとう...ございました」 深々と頭を下げると バッグの中からハンカチを出した ーーきっと化粧が剥げてバケモノだわ ハンカチに付くマスカラに 深いため息を吐いた
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