再会は偶然

5/7
2749人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
40分程のドライブで お寺に着いたのは15時を回った頃 「ヒール...大丈夫ですか?」 石段で苦戦している様子を見ながら サッと差し出された手を躊躇いがちに掴む 一瞬で耳まで赤くした自分を 見られたくなくて つま先に視線を集中させる 運動不足も手伝って... 膝が笑い出す 「さぁもう少し」 「はぃ」 顔を上げて目が合うと ドキドキが増す ーーなんだか変な私 嬉しくて・・・ 切なくて・・・ 泣き出したくなるような もどかしい思い ギュッと苦しくなる胸は 夫との間では経験したことのない感情 ーーもしかして そう確信してしまった気持ちを誤魔化しながら 1段先を行く住職に掴まる自分の手を見つめた 「ハァハァ」 山門に到着すると乱れた息が 額の汗を増やす... 「綺麗ですよ」 山門に背を向ける住職の視線を追うと 振り返ると新緑の木々がサワサワと 風にそよぎ心地いいリズムを奏でている 「本当に」 眩いばかりの景色 汗をハンカチで拭いながら 不安定な姿勢を直そうと ヒールの向きを変えようとして 細い踵が石段の端に引っかかる 「あっっ」 バランスを崩してのけ反る身体 ーー転ぶ そう思った瞬間身体中に力が入り ギュッと目を閉じた 「あゆみさんっ」 ーーん?痛く・・・ない 近くで香る白檀の匂いに 恐る恐る目を開けると 間近に住職の顔が・・・ 「・・・っ」 転ぶ寸前で腕の中へ ガッシリと抱えられたんだ・・・ 間近にある住職のアゴと 何十年ぶりかに男性に抱きしめられた感触 動揺で上がる息が更に増し 離れようとした外の景色がズレた 「あっ、あゆみさんっ」
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!