ともちゃんの冒険

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※※※※  その日の夜、あたしはどうしてもその本が気になって仕方がなかった。二十年も放ったらかしだったくせに、随分勝手だと思う。けれども、ここで読まずにまた引き出しの中にしまったら、それこそ人でなしだと思ったのだ。  あたしは、学習机の椅子に何年かぶりに腰掛けた。あの本を取り出し机の上に置く。意識したら急にドキドキしてきた。  ゆっくりと、微かに震える指先で表紙を捲った。  『ともちゃんの冒険』  少し古びた紙だ。ところどころテープで補強してある。  『赤い、小さな屋根の家に、ともちゃんという女の子が住んでいました』  書き出しはこうだった。やっぱり高学年の子が読むには少し幼稚な気がした。それでも少しずつ読み進める。  三ページほど進んだところで、この物語の内容がなんとなく掴めた。    『ともちゃん』という女の子が、草原にぽつりと建つ一軒家に住んでいた。しかし彼女には家族も友達もいない。独りぼっちなのだ。  ある日彼女は決心する。『他の地を旅して、友達をたくさん作りに行こう』と。自らを奮い立たせ、長年住んでいた赤い屋根の家を飛び出すのだ。そこから『ともちゃん』の冒険が始まる。  そんな話だった。あたしは、スタンダードな冒険物っぽさに、好感を抱いた。ワクワクしつつ、ページを捲る。
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