38人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
※※※※
その日の夜、あたしはどうしてもその本が気になって仕方がなかった。二十年も放ったらかしだったくせに、随分勝手だと思う。けれども、ここで読まずにまた引き出しの中にしまったら、それこそ人でなしだと思ったのだ。
あたしは、学習机の椅子に何年かぶりに腰掛けた。あの本を取り出し机の上に置く。意識したら急にドキドキしてきた。
ゆっくりと、微かに震える指先で表紙を捲った。
『ともちゃんの冒険』
少し古びた紙だ。ところどころテープで補強してある。
『赤い、小さな屋根の家に、ともちゃんという女の子が住んでいました』
書き出しはこうだった。やっぱり高学年の子が読むには少し幼稚な気がした。それでも少しずつ読み進める。
三ページほど進んだところで、この物語の内容がなんとなく掴めた。
『ともちゃん』という女の子が、草原にぽつりと建つ一軒家に住んでいた。しかし彼女には家族も友達もいない。独りぼっちなのだ。
ある日彼女は決心する。『他の地を旅して、友達をたくさん作りに行こう』と。自らを奮い立たせ、長年住んでいた赤い屋根の家を飛び出すのだ。そこから『ともちゃん』の冒険が始まる。
そんな話だった。あたしは、スタンダードな冒険物っぽさに、好感を抱いた。ワクワクしつつ、ページを捲る。
最初のコメントを投稿しよう!