神様は英国紳士に憧れていらっしゃるご様子

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 この世に神などいない。  あかねは歩道橋の手すりに手をかけて、鼻をすすった。  右手には缶ビール。  足元にはもう飲み干した空き缶が5缶。 「クビ……ってことですか?」  課長に打ち合わせ室に呼び出されたとき、あかねはいつものごとく成績のことで怒られるのだと思っていた。  成績のことで怒られるのは、毎度のことながらきつい。痛む胃をおさえながら、覚悟を決めて打ち合わせ室に入った結果がこれである。 「クビという言い方は……西条君はよく働いてくれたし、本当に申し訳ないと思っている。けれども、社の資金繰りが厳しくて、人件費を見直そうという案が出て……。そういうわけで……」  あかねは通信教育の訪問販売の営業をしていた。  同期の半数は、もうひとりで契約をとれるようになっていたが、あかねは逐一上司に聞かないと動けず、それどころか契約にも上司についてきてもらっていた。  苦手な言葉第一位は「自分で考えて」。  はっきり言って会社のお荷物である。  それは自分でも気づいていた。  残りの半数の同期がどうしているかというと、自分から辞表を出して辞めた。 「……わかりました」  あかねが消えそうな声でそう答えると、課長がほっと息をつくのが聞こえた。
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