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腕輪
あぁ、さっき迄あたしの前で笑顔を溢していた君の手首に、見覚えのある髪ゴムがついている。
もう数十ヶ月前からその髪ゴムは伸びてしまったからと言ってつけていなかった筈なのに、何で今更。
あたしの嫌いな、君のことが大好きな女から貰った髪ゴム。
あたしの嫌いなその女が、SNSで、彼がその髪ゴムを気に入ってどこにでもつけて歩いてしまうからゴムが伸びちゃったんだって!って書いていたのを見て以来、あたしは君がその髪ゴムを白い手首につけているのを見かける度に、誤ったフリでもして、引きちぎってやりたいと思っていた。
もう何十ヶ月もつけてなかったのに。
伸びたゴムが千切れて、その侭無くなってしまえば良いのに位に思っていたのに。
想像は妄想へと変り、確信の無いことが、核心染みた速度であたしを汚していく。
彼は、あたしが昨日何で笑えなかったのかをきっと気付かない。
彼は何度も、あたしが俯く姿を捉えて、笑顔を与えようとあたしを見てくれた。
あたしは彼を観ること何て出来なくて、あたしはその場から逃げ出したくて、涙が溢れ出そうになる感覚に心底怯えていた。
あぁ、この場から逃げ出したい。
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