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レイン
「お釣りはいいから、これでお願いね」
一万円を差し出す。
「あ、こんなには……」
幹事の永松さんは、受け取っていいのかどうか迷っている。
「いいの。でも、ごめんね。先に帰らせてもらうわ」
そう言い置いて、お会計前のレジから離れた。
部署の後輩の彼女は、仕事もしっかりこなすタイプで、上司からの信頼も厚い。こういったお金を扱う役は適任で、頼りになる存在。
この小洒落たダイニングバーを二次会の席として予約していたのも彼女だ。まだ入社3年目位なのに感心する。
外の入口では、仕事の仲間達がまだ残っていた。おそらく次の店に行くつもりで、全員が出てくるのを待っているのだろう。
仲間と言っても、殆どが若手の後輩たちで、彼らはこういった公の場で、酔った勢い丸出しの会話が出来る世代だ。
私は集団の脇から、気が付かれないようにして店を後にした。
少し足元がふらついたのはお酒だけのせいじゃない。強い風に煽られたせいもある。
台風が近づいていて、夜中から雨が降ると、朝のニュースで言っていたのを思い出した。
「───もう帰るんですか? カラオケ行きましょうよ」
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