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僕がまだ小さいころのお話です。
僕の家族はお父さんとお母さん、お姉ちゃんが一人います。
じいちゃんの介護が必要になったので、僕たちはじいちゃんとばあちゃんの家がある田舎に引っ越してきました。
木造平屋の小さな家でした。
僕は、もうじいちゃんの顔もばあちゃんの顔もよく思い出せません。
玄関を入ると襖の奥に居間があって、ご飯を食べる大きな机のそばには座椅子があります。
そこでじいちゃんとばあちゃんは毎日二人でお茶を飲んでいました。
会話はありませんが、二人はいつも一緒にいました。
二人とも目を閉じて庭に遊びに来る鳥の声を聞いたり、たまにテレビを見たりして過ごしていました。
僕はばあちゃんに聞きました。
「ばあちゃんは何もしなくても楽しいの?」
「何もしなくても楽しいんだよ。」
よく理由がわかりません。
僕は続けます。
「どうして?退屈じゃないの?」
「退屈なんて思ったことはないね。大忙しさ。」
やっぱりよく分かりません。
納得のいかない僕に、ばあちゃんは「じいちゃんと一緒だからね。」と付け足しました。
ばあちゃんは僕の頭をなでます。
そして、しわくちゃの顔をもっとしわくちゃにして、愛おしそうに目を細めました。
「人生のコツはね、待つこと。」
僕は静かにばあちゃんの話を聞きます。
「決して急いではいけないよ。急いでいたら、大事なことを見落としてしまうかもしれないからね。ゆっくり座って待っていれば、必要なことはちゃんとやってくるもんさ。」
「例えば?」
「ばあちゃんのところに、こうして宝物が来てくれたこと。」
ばあちゃんは僕を抱きしめます。
お線香の香りがしました。
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