A視点

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 白、しろ、シロ。  どこまでも真っ白な世界。  空も、地面も、壁も、四方を真っ白な雪に覆われて。  平行感覚が、身体の感覚が。  狂う。  やがて。  やや灰色がかった白い空からちらちらと雪が舞い降りてきた。  埃っぽい匂いの混じった雨とは違う、湿り気を帯びた澄んだ匂い。  どこから空でどこから地面なのか。  境目が分かりにくいこの風景を。  一枚の『写真』に収めるのは簡単な作業ではなかった。  どうすればこの感じを表現出来るんだろう。  どうすればこの感じを伝えられるんだろう。  どうすればこの感覚を一枚の写真に収められるんだろう。  この感覚。  冷たく閉ざされた、清らかな音のない世界。  孤独。  虚空。  表現したくて。  夢中になって写真を撮り続けた。  ふと。  我に返る。  真っ白な空間に取り残されたような気分になって。  不安が押し寄せる。  私が写真を撮ることが出来るのは。  貴方が傍にいてくれるから。  なのに私は。  写真に夢中になると忘れてしまう。  大好きな貴方を。  後ろを振り向くと。 「…………!」 ……いた。  貴方がそこに、いた。    寒空の中、いつもの優しい瞳で私を見ている。  その瞳を見つけて、安堵する。 「真っ白な世界に貴方まで溶けて、消えてしまったかと思った」  微笑むつもりが。  上手く笑えなかった。  そんな私を。  貴方は優しく包み込む。  広く、暖かい胸の中に。
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