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晴れていれば青空に真っ白な雪像が映える、綺麗な写真が撮れるはずだった。
ところが天気はあいにくの曇り模様。
どんよりとした灰色がかった空から雪もちらつき始めた。
失敗した……。
と思っていたら。
貴女は雪像には見向きもせず、真っ白な雪しかない山の風景写真を撮ることに没頭し始めた。
一枚。
また一枚。
シャッターを切る音だけが響き渡る。
真っ白な『無』に近い世界。
でもきっと。
貴女の瞳には。
何か『特別』なものが映っているのかもしれない。
僕の存在を忘れる程に。
一時間ほど経って。
貴女の手が。
動きが止まった。
そして。
何かを探すように顔を上げて。
その瞳に僕を捉えた。
不安げな色を浮かべて。
「真っ白な世界に貴方まで溶けて、消えてしまったかと思った」
無理して笑おうとしたのがわかった。
そんな貴女が愛おしくて。
僕は。
大きく腕を広げて包み込む。
「消えたりしませんよ」
腕の中にすっぽりと収まった貴女が僕を見上げる。
冷たく固まっていた身体から少しずつ、無駄な力がほどけていくのがわかる。
その瞳の中に不安げな色はどこにもなかった。
「僕は既に貴女色に染まってますから」
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