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もう、ダメだ。
「ぐわぁぁぁぁ!!!!!!!」
僕の手から放たれた炎は、ドラゴンの造形を描きながら天幕を覆い尽くした炎の網へ、次いでサラマンダー達へ、彼らが使用していた机や椅子へーーつまり、全てを呑み込まんと大口を開けて突き進む。
「うわぁぁぁぁ!!!!!」
咆哮は止まらなかった。憎悪の憤怒の焔が出尽くすまで、右腕に響くような痛みが満たされるまで。
「おい! 天幕を燃やしてどうする!?」
ーーうるさい。激情に反応するように、ドラゴンは後ろの太った人間へと食らい付いた。
「う、ぎゃああああ!! やめろ! 痛い!! 熱い!! やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
蹂躙されてその場に倒れる音が聞こえると、それは次の獲物を求めてぬらぬらと光る牙を見せた。
「……こ、こっちに来るぞ!」「逃げろ!」「逃げ道なんてないじゃないか!!」
「なんでもいい! 伏せろ!!」
サラマンダー達は地面へと突っ伏した。その上をドラゴンが猛スピードで通り過ぎ、再び上昇していく。そのままの勢いで天幕を突き破ると、ドラゴンは上空へ飛び出していった。自由の空へと飛翔するように。
「うわぁぁ!」
子どもの幼い叫び声に我に返ると、僕は走り出していた。天幕を支えていた骨組みが崩れ、破片が子ども目掛けて落下していく。
「危ない!!」
最初に炎を放ったその男は、ずっと握り締めていたその手を強く引っ張った。遠くからでもわかるほど強くきつく、握られた手が、僕の脳裏にあのときの言葉を思い出させてくれた。
「手を離すな、 最後まで」
破片は深々と子どもの柔らかい肌に突き刺さった。絶叫に嘆きの声が耳奥へと飛び込んでくる。
大丈夫だ。僕ならまだ間に合う。
ピクピクと目を開けたまま倒れたサラマンダーの子の傷にそっと両手で包み込むように触れる。
「やめろ! 何をする気だ!」
「……大丈夫です。僕も、サラマンダーの子だから」
「なんだって!?」
赤を打ち消すような白い光が両の掌から現れる。小さな光は瞬く間に辺りを包み込んだ。
ーーその赤色の眸を向けると、男は不器用に口の端だけを横に引いて笑った。たぶん、それは微笑みだった。
「それがお前の持つ力だ。名前はまだ無いが、そのうち誰かが付けるだろう。いいか。誰かを守るために、争いを止めるためにこそ、その力は役立つ。次に会うときまで、これだけ覚えておけ」ーー
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