サラマンダーの子

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 眩いほどの白い光が消えると同時にサラマンダーの子は起き上がった。破片に貫かれた背中を擦るも、そこにはもう傷痕も何もない。 「なんだ……?」「傷が! なくなっている!!」  大きく地面が揺れたのは、そのときだった。噴火直前の火山の唸り声が耳をつんざく。 「逃げろ! できるだけ遠くへ!!」  いくらサラマンダーが火山とともに生きてきたとしても、噴火に巻き込まれればただでは済まない。それに、鱗のない子どもはマグマの熱さに耐え切ることができない。  全員が一斉に外へと飛び出した。が、それを嘲笑うかのように強烈な爆発音が耳を貫いた。 「噴火だ!」「もう間に合わない!!」「子どもたちを真ん中へ!! 全員で覆い被さって子どもたちを守れ!!!」  その言葉通りサラマンダー達は、泣き叫ぶ子どもたちを真ん中に円を作り、抱きかかえるように地面へと突っ伏した。その鱗の鎧に向かってマグマが、遠くから押し寄せてくる。  さて、僕は。  くるりと後ろを向くと、一人の人間が倒れていた。ドラゴンの炎に身体中が焼かれ、皮膚が黒く変色しているが、幸いにもまだ息がある。 「よかった」  すぐにまだ熱を帯びる身体に両手を押し付ける。再び白い光が溢れていく。 「なぜそいつを助けるんだ!」  光に気づいたのか、誰かが叫んだ。 が、なんでと言われても、自分でもわからなかった。ただ、衝動が僕の体を突き動かしたとしか言えない。火を放つものとは別の衝動が。もし、それを言葉にするとすれば。 「……痛み」  そう、それはきっと。 「痛みを知っているから」  輝く白い光に目を瞑る。何度やってもその光が自分から出されていることに実感が湧かなかった。なぜ、こんな力を持っているのか、行使できるのか。ーーただ、今なら、力の使い道はわかる気がする。  目を開くと、辺りは暗かった。……暗い?  驚いて顔を上げると、頭上高く、太陽を遮るようにしてドラゴンが飛んでいた。僕の放ったドラゴンではなく、本物の巨大な羽を携えたドラゴンが。 「これは……飛竜か!?」  目を覚ましたエドガルドの声が上擦っている。それほどまでに貴重な存在が、なんでこんなところに。 「よお、久しぶりだな」  舞い降りたその声の響きが、疑問に応えてくれた。町を覆っていたあの噂は、どうやら本当だったらしい。 「迎えに来たぞ。サラマンダーの子」
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