サラマンダーの子

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 そうして、エドガルドの依頼は達成された。定員オーバーと言われながらも、サラマンダーの全員と一人の人間を乗せた飛竜は、マグマの届かない空高くへと舞い上がり、しがみつくのがやっとなくらいの速さでアクアリッカ町へと向かい、舞い降りた。  噴火で逃げ出したカメージョ2体も、無事に行商団に保護されて飼い主のエドガルドの元へと送り届けられたらしい。 「おいおい、もう行くのかい?」  コップに注がれた水を飲み干し、立ち上がった僕に、店主はどこか寂しそうな言葉を投げ掛けた。  そのふっくらとした顔に向けて軽く微笑む。 「ええ。外であいつが待っているから」 「おい! 随分とあっさりだな!」 「すみません。こういう性格だから。でも、店主には感謝しています。僕のこと、いつも気にかけてくれて」  ーーそして、こうして受け入れてくれて。  店主は照れ笑いを浮かべながら、プレートとコップをいつものように受付の長テーブルの上へと置くと、思いついたように「あっ」と声を出した。 「お前さん、もう黒装束使わないだろ?」 「……ええ」 「だったら、それをここに置いていけ。一人の英雄の着ていた服として店に飾っておくから。お前さん、これから世界中を回ってどんどん有名になっていくんだろ? 英雄アベルの出身ギルドとしてここも安泰だ!」  相変わらず抜け目のない。そう感心しながら、木の皮のバッグに詰め込んだ黒服を取り出し、店主に手渡した。 「じゃあ、行ってこいよ、アベル」 「ええ、今度こそ、もう行きます」  互いに笑顔で挨拶をかわすと、僕はわざと早足でギルドを出た。照りつける太陽が目に眩しいが、鱗に包まれた身体は、以前よりも暑さを感じさせなかった。  店の前には赤い眸の男が、手をかざして目を細めて立っていた。迎えに来たと言いながら、人の名前すら覚えていなかった薄情な男だ。 「待たせたな」 「ああ、随分と待ったよ。サラマンダーの国はどこでもこんなに暑いのか?」 「ここは、まだ涼しい方だよ」 「そうか。すげぇんだな、ここに暮らす奴らは。ーーよし、行くか」  男が指を鳴らすと、はるか上空を飛び回っていた飛竜がゆっくりと降下してきた。飛び乗るようにしてその背に乗り込むと、一気に飛翔していく。
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