サラマンダーの子

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 目の前に出されたそれは、ワンプレートながらご馳走に見えた。突き出た熱々の骨を構わずつかんで、溢れ出るよだれとともに、口へと運ぶ。若干固いが肉の旨味が凝縮されたそれは、喜びとともに舌へと迎え入れられた。数日ぶりにちゃんとした食事を取ったからか、お腹に肉が溜まっていくのがわかる。  一分も経たないうちにガセルの肉を平らげると、コップ一杯の水を一息に飲み干した。 「……ごちそうさまでした」  呆れたような目で僕を見下ろしていた店主にお礼の言葉を述べると、店主は時が止まっていたのかと思うくらい固まっていたお腹をぷるんと動かした。 「いやいや、そんなに腹減ってたのか!? 何日食べてないんだ?」 「たしか、三日間ほどきちんと食事は取っていなーー」 「3日だって!? 前から言っているが、計画的に依頼をこなしたらどうだ? なにも大陸を出るほどの大金を貯めろと言ってるわけじゃない。だが、少なくとも毎日の生活を普通に送れるようにだな。そうだ、行商団や狩猟団の護衛はどうだ? 長期間食いっぱぐれはないぞ! お前さんほどの実力があれば簡単だろ?」  それはできない提案だった。長期間誰かと過ごさなければいけないのは論外だが、定期的に依頼をこなすのも無理だ。僕は、目立つわけにはいかない。 「……残念ですが。今の生活が気に入ってるんで」 「そうか……もったいない。お前さんならもっと広い世界に出ていけると思うんだが」  一瞬、哀しげな表情を見せるも、すぐにいつもの笑顔で僕が食べ散らかした皿を片付ける店主。 「まあ、お前さんも何か事情があるんだろう。その隠れた素顔に。いつでも来るといい。今度は三日間も空けないでやってきな。これくらいの食事ならいつでも提供してやるから」  そう言って細めた目は、勢いよくドアが開く音ともに丸くなった。 「いらっしゃーー」 「頼む。急遽だ! 至急、依頼を頼む! 『黒衣の焔』に依頼を!!」  振り向けば、これまた恰幅のいい中年の男が店の入口で喚いていた。薄手だが上等そうな白いローブは光沢を帯びており、それだけで有力な権力者か、大商人か。ギルドのルールをしらないところからすると、権力者かもしれない。 「まあまあ、落ち着いてお客さん! 依頼書はあるのかい? それから冒険者を指定する場合は追加料金がーー」 「そんなものはない! いくら必要だ! 金ならいくらでも出す!」 
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