サラマンダーの子

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「いくらでもってなぁ。言い値でやってるような商売に見えるかもしれないが、一応、相場ってもんがあるんだ。こちとら冒険者の命が掛かってるからな! 依頼内容も示せないようなら、悪いが一旦お引き取りを願わなくちゃならん」  食器を受付の長テーブルの上へと置くと、店主は太い腕を組んで正論を捲し立てた。どんな無茶な依頼主でもだいたいはこれで正式に依頼を申し込んでくるわけだが、ローブの男は一歩も引かなかった。  いや、いきり立って三歩ほど前へと歩む。 「だから時間がないと言ってる! こっちは大勢の命が掛かっているのだ! 黒衣の焔はいるのかいないのか!」  チラリ、と店主が僕を見やる。その目は、あくまでも僕を守ると言っているようで、仕方なく僕は、店主が次の言葉を捻り出す前に自ら立ち上がった。 「! おい、アベル!」 「いいんです。話を聞く限り、相当深刻な事態のようですから」  小太りの男は明らかに値踏みするように僕を見下ろした。そう、たいていの大人はそうやって僕を見るものだ。そして。 「なんだね、君は」  と、不機嫌な声を発する。それに対する返答も、もう決まりきっているのだが、言わなければ先に進まないのでつい今しがた潤ったばかりの唇をスカーフの裏で大きく動かした。 「僕が、黒衣の焔ーーアベルです」  そのあとの展開も予想通り、今までの依頼人と大差ないものだった。口をあんぐりと開けて、飛び出しそうなほどに目を開け広げ、上半身を仰け反らせる。  大きく違いが現れるのは、そのあとのリアクションだ。それによって、だいたいの人柄をつかむことができる。 「そんな! まだ子どもじゃないか!?」  なるほど。こいつは典型的な権力者のようだ。相手を外形的特徴のみで判断しようとする。 「確かに子どもだが、間違いなくアベルの小僧はお客さんの探している黒衣の焔だ」  男の目線は店主の顔と僕の顔を何度も行き来した。そして、改めてまじまじと僕を見つめたが、その顔には隠そうともしない疑念が浮かんでいた。……仕方ない。 「……簡単に、力を見せます。それで依頼をするかどうか決めてください」  店主に目配せをして外に出た。ドアを開けた途端に視界を包み込む眩しい光と熱気に補給したばかりの体の水分が一挙に蒸発していくようだった。 「わざわざ外に出て何をするつもりなんだ?」
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