サラマンダーの子

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 ピュビロエスカルボは、予想通り噴火間近だった。地鳴りや地震が頻発し、いつ何時火山が爆発してもおかしくない状況だった。 「前地震期はいつ頃からですか? エドガルドさん!」  前を走るやや黒毛の目立つカメージョに跨がるエドガルドに向かって声を張り上げる。砂嵐が舞っているせいもあるが、地震のせいでほとんどの音が遠くに聞こえてしまう。 「もう、半年前からになる!!」 「半年前!? では! やはり、もう!!」 「ああそうだ!! だから大変なんだ!!!」  半年も前から噴火の兆候が現れているのなら、住民の移動はもうとっくに済んでいるはずだった。移動だけじゃない、天幕も生活、狩猟道具もわずかな家畜も、全てが移動を終えているはずだ。どんなにのんびりした者だろうが、移動を終えていなければいけない。  砂嵐が急に強くなり、若干カメージョの動きが遅くなる。片手でフードを押さえながら細めた目の先にうっすらと山が見えた。砂漠と同系色の岩壁が連なり、目を凝らして頂上付近を見上げると、やはり赤々とした溶岩が今にも爆発するのを待っている。ーー相変わらず嫌な色だ。  こんな状況で町に何があるというのだろう。何かあるとすれば、確かにそれは緊急の大問題に違いないだろうが……。 「エドガルドさん!!」 「なんだ!?」 「そろそろピュビロエスカルボに着いた頃ではないですか!? 山があそこにあるのなら! 依頼の中身、教えていただいても?」 「まだだ! もうすぐ! 住居に着いてから!!」  住居だって!? この期に及んでまだ移動に遅れた連中がいるのか? 「我々サラマンダーの民は、漂流することを運命づけられた民」ーーこの地に生を受けたものなら誰もが幼少期から刻み込まれた言葉。満足に教育すら受けられなかった僕ですら知っている常識中の常識だ。規則的に頻発する火山がある限り、僕らは移動し続けなければいけない。 「見えてきたぞ!!」  エドガルドさんの怒鳴り声にも聞こえる大声にはっと前を向くと、ちいさな天幕がいくつか固まって砂嵐に揺れているのが見えた。 「こんなに住人が!?」 「ああ! 奴らを住人と呼ぶのならな! 奴ら何が嫌なのか移動を頑なに拒んでいるんだ!!」 「……奴ら?」  手前の薄汚れた天幕の前にカメージョを止めると、そのコブと顔を撫でて、エドガルドは中へ入っていった。疑問を持ちながらもその後に続く。
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