サラマンダーの子

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 果たしてそこにはサラマンダーがいた。いや、外見からはそうと判断することは難しい。自分と同じように鱗が身体中を覆っていても、人間とサラマンダーのハーフの可能性だってあるからだ。  エドガルドは、僕の背中を押して天幕の中を進んでいく。それと合わせるように、まだ鱗の生えていないちいさな子どもたちが後ろへと下がり、今にも泣き出しそうな顔をした。その子らを守るように繋いだ手をぎゅっとつかんだ立派な鱗を生やした青年が、こちらを睨み付けた。 「エドガルド!! 何しに戻ってきた! 無駄だぞ! 俺たちはテコでも動かない!! この子と我々を守るために!」 「またそんな減らず口を! 我々人間が使ってあげなければ満足に生活することもできないサラマンダーめが!!」  どういうことだ? 依頼というのはなんなんだ? 「……エドガルドさん。申し訳ないが、いったい何をすればいいのか……」 「決まりきっているじゃないか! こいつらは我々町民にとって、大事な商売道具! 勝手に噴火で死んでもらっては困るんでね。動けなくなるくらいでいいから、こいつらを痛め付けろ!!」  得意げに喚くエドガルドの声が背筋を冷たくさせた。赤、赤、赤、赤ーー時折見るあのときの夢から目覚めた瞬間のように、身体は硬直し動かないのに心臓だけは燃え盛る炎のように激しく脈打っていた。 「おい! 薄汚いサラマンダーども!! ここにいるのは、黒衣の焔だ! お前らも知ってるだろう? あのドラゴンですら燃やし尽くすと言われる炎の使い手!! お前らの小さな炎じゃ呑み込まれて終わりなんだよ!! さあ、諦めて移動しろ!!」  今までとは違う種類のざわめきが沸き起こった。大人たちの間に走る動揺に、子どもたちは一斉に泣き声を上げる。 「さあ、頼んだぞ!」  急に背中を押されて、転がるように前へ飛び出た僕を警戒して、リーダー格らしいサラマンダーの青年が右手を僕に向かって突き出した。掌の中心に僕と同じように赤い焔の塊が現れる。青年は左手でつかんでいた子どもの手を強く、強く力を込めて握り締めた。 「手を離すな、最後まで!」  咆哮とともに、いや、咆哮を掻き消すように掌から火球が射出される。小さな、かわすのはたやすい弱々しい炎。  だが、僕は対抗しようとする右腕を無理矢理左手で抑え込むと、その炎の直撃を受けた。熱風が肌を焦がし、炎が黒服の一部を溶かしていく。
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