サラマンダーの子

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「やったか!」 「……いや、まだだ」  その程度の炎ではまるでダメージはない。定期的に鱗を削っているとはいえ、元々が炎に強いサラマンダーから受け継がれた皮膚だ。その場で軽くジャンプするだけでまとわりついた炎は掻き消えた。 「くそ! 炎を吸収するみたいに消しやがった!」  そうだ。もっと動揺してくれ。動揺して、恐れて、降伏してくれれば何も問題はない。 「……もう一度だ!」  男は手を上に掲げた。腕がまるで生物のように膨らみ、掌の上に凝縮された火炎球をつくりだす。そしてーー。 「うぉあああああ!!」  意を決した掛け声とともに火球を放り投げた。その声は、怒りを、痛みを紛らわすためのもの。痛いのならば、辛いのならば、もう諦めてくれ。  弧を描いて迫り来る火球の軌道の先に右手を上げる。 「エンブローブ・ヒューゴ」  腕がぎゅるんとうねり、直撃する瞬間に焔を発動させた。鞭のようにしなる二本の火縄が火球へ食らい付き、その回転を急速に止めていく。黒い手袋がやはり耐え切れずに焦げていくが、ほんの数瞬で火球は空気に溶けていった。  その先には、唖然と口を開けた男の姿が。 「……そんな……」  これでわかっただろ。もう無理なんだ。さあ、諦めて手を下ろしてくれ。そうすれば、これ以上痛みに苦しむことはない。  そうだ。苦しむことはない。人間の元で働けば安全に生活ができるし、僕のように姿を隠しさえすれば、自由とはいかないまでもサラマンダーのことを気にしないで生きていられる。 「まだまだ!!」 「!?」  男はまた右手を掲げた。今の魔法の影響で流れた血を拭おうともせずに。下ろしたままの左手は子どもを守ろうとするかのように、その小さな手をさらに強く握った。 「待て!」 「なっ……!」  後ろから割って入るように細身の男が横に並んだ。それをきっかけに次々と鱗の体が列をつくる。 「一人では無理でも、この全員ならどうだ!!」  一斉に右手が上げられ、腕が収縮する。瞬きした次の瞬間には、それぞれの掌から火球が発射された。それは、鎖で繋がられた強固な火の壁のように迫り来る。  後ろから汚い悲鳴が上がった。 「バカども!! そんなことしたら天幕ごと燃えてしまうだろうが!!!! アベル! 早く止めろぉぉ!!!」  ーーそんなこと、わかってる。考えるよりも早く、疼いた腕が跳ね上がった。  
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