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「すっごくやんちゃでね、すぐいたずらするから怒ったりもしたし……あ!『モモ先生と俺は付き合ってるんだー!』『将来はモモ先生と結婚するんだー!』なんて言ってたな~」
「ストップ、ストップ」
私は思わず話を遮った。
「お母さんの名前って"サヤカ"じゃ……?」
すると、母は大きく笑った。
「あぁ~旧姓よ!百瀬だったから!」
明るい笑い声が台所に響く。
「あぁ……なるほど、旧姓……」
私の胸はどんどんざわついていった。
「あなたが生まれる前だから……もう10年、いや15年くらい前か……いまはその子も大学生くらいかな?時の経つのは早いもんね……はっ!」
母は遠い目をしていたが、急に何かに気付き私の顔を見つめた。
「もしかして!ラブレターだったりして!」
そして乙女のようにキラキラと目を輝かせた。
その姿を見て私は思った。恋の辞書があるとしたら、"不正解"という文字もないかもしれないが、"賞味期限"という文字もないかもしれない。
母は大きく深呼吸してからピンクの封を開いた。その顔は母性に溢れた優しくて穏やかな顔だった。
【完】
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