願いよ届け(アシュレー)

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 不安で胸が張り裂けそうだ。どうして、この笑顔が見たかったのに今は見ていられない。このまま消えてしまいそうじゃないか。今にも……  ウェインは苦笑して、アシュレーの胸に飛び込んで、キスをする。実感のないキスは、苦しさばかりだ。 「ケーキ、約束だからね。時間、作ってよね。アシュレーの側に、置いてよ」 「当たり前だ! 俺はお前を手放す気なんてない!」 「へへっ、嬉しいや」 「好きだと、言っただろ。お前の事を、大事に思っているんだぞ」 「分かってる」 「勝手に死ぬな……俺を殺す気か……」  抱きしめる手に力を込めた。体温のない体でも、触れるだけで安心できた。 「アシュレー、大好きだよ」  笑ったウェインが消えていく。途端にスカッと腕が空を切って、アシュレーは堪えられずに叫んでいた。  ハッと意識が浮上して、顔を上げる。外は夕日が赤く世界を照らしている。いつの間にか、眠ってしまっていた。 「アシュレー」  ぽんと背後から肩を叩いたのは、エリオットだった。その顔はほっとしている。  その時、反応のなかったウェインの手が弱い力で握り返してくる。それに驚いて、ウェインの顔を覗き込んだ。  薄く開いた瞳がアシュレーを見つけて、弱いけれど確かな笑みを浮かべる。 「ウェイン……」  人がバタバタと忙しくしているのに、アシュレーは涙を止められず、弱く抱き寄せた。     
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