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黒衣の騎士はその瞳に一切の慈悲を見せず、嘲笑も、憎悪も見せず淡々と処理するように戦場を蹂躙していった。
これといって、生死を問うわけでもない。一刀のうちに切り伏せて、後は放置した。それで十分だったのだ。剣はどれも深く、食らえば即死せずとも死ぬだろうと彼は経験から知っていた。
むしろ、一撃で死ねたなら幸せだっただろう。下手に急所を外れた兵は地を這いつくばり、痛みや苦しみにのたうつ結果となった。
これで誰かが助けようとしてくれれば、まだ魂は救われたかもしれない。これが帝国の騎士ならば、傷つく仲間を助けようとしただろ。例え死んだとしても、一人ではなかった。
だが、仲間が死ぬ事で取り分が増えるとすら考えていた奴等が、恐怖を感じながらも死にそうな者を助けるわけがない。
体はのたうち苦しみ、呻きは誰に届く事もなく、ただ虚しく一人死んでいく。この段階で初めて彼らは知る事になる。
命というものの尊さと、大切さを。
逃げた者も当然した。黒騎士はそれを別段止めなかった。
黒騎士が現れた僅か一時間、ラジェーナ砦前には悪魔も顔色を変える程の屍が累々と積み上がり、息のある者も助かる見込みはなく、逃げた者は逃げるのが精一杯だった。
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