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累々とした屍の上、黒馬に乗り黒衣をはためかせた黒皇ファウストには一切の傷もなく、その瞳には感情もない。戦場を見下す瞳は人を見ているのではなく、もはやゴミを見るようなものだった。
「ファウスト様!」
遅れ、森に潜むように厳命していた部隊が駆け込んで、あまりの惨状に青い顔をする。そんな仲間に向けられた視線もまた、静かで感情が見えないものだった。
「オリヴァー、ラジェーナ砦を再度見回って、安全か確認させてくれ」
「はい!」
「アシュレー、お前は騎士団砦に行け」
「ですが……」
「一晩待ってもウェインが俺達の所に来なかったなら、何らかのトラブルで砦に引き返した可能性が高い。行って、確認してこい」
「……有り難うございます」
「残りの第一師団はこいつらを集めろ。このままじゃ焼くのも一苦労だ」
「集めろ……って……」
命じられた第一師団は皆、嫌な顔をした。それもそうだろう、あまりに生々しい。まだ体温すらも残っていそうな死体ばかりだ。しかもなりふり構わぬ殺戮の為、綺麗な死体などどこにもない。
「俺もラジェーナ砦にいる。今日中に終わらせて、夜には火葬するぞ」
「……はい」
オリヴァー率いる第四師団はラジェーナ砦を見回り、安全確保を開始。アシュレーは単騎で騎士団砦へと向かっていく。
それらを見届けて、ファウストはようやく長剣を鞘に収め、愛馬の首を撫で、瞳を緩めた。
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