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一歩踏み出す事が、あまりに重かった。膝をついていた人物が近づいてきて、アシュレーの手を握る。とても強い力で、必死に。
「貴方が諦めてはいけません」
「え?」
「彼は頑張りました。二度目の手術も乗り切ったのです。貴方を想って、乗り切ったのです」
「貴方、は……」
「手を絶対に離さないで、声をかけ続けてください。声に出さず心の中だけでいいから、励ましてください。貴方の声ならきっと届く。引き上げて、側にいると言い続けてください」
握られた手が、熱くなるような感じがあった。そしてこの言葉に従う気になった。
ベッドの横に座り、手を握った。握った手は、温かい。僅かに、息をする音も聞こえる。生きていて、頑張っている。
「来たぞ、ウェイン。もう、大丈夫だから……頑張れ」
握り絞めた手に、力がこもった。声は、震えていた。知っているウェインよりも、色が白い。眠っていても幸せそうなこいつが、今は妙に静かな顔をしている。
「頼む、置いて行くな……」
額に手を押し当てた。そうしてただ祈るばかりだ。
覚悟は、していた。互いに騎士などしていれば、こんな日が来ると。ウェインが死んでも、絶対に忘れない。存在を刻んで、彼を弔って生きていこうと。
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