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今その瞬間が、あまりに近い。いつこのか細い息が消えてしまうか分からない。もう二度と、声を聞けないかもしれない。瞳が、開かないかもしれない。もう、無邪気な笑顔が見られないかもしれない。
気付けばみなが、部屋を出ていた。だからこそ、アシュレーは素直に泣く事ができた。
「すまない、ウェイン。側に、いてやれなくて……」
プライドが高くて、人前で泣く事もできなくて……
「頼む、目を開けてくれ。名を、呼んで……ウェイン、頼むから」
胸の奥が軋む。怪我をするよりもずっと痛い。苦しくて息ができない。もしも失えば、この息は止まってしまう。時が止まってしまう。心が、壊れてしまいそうだ。
「生きてくれさえすれば、後は面倒を見るから。側に、いるから。頼む……頼む……」
触れる手さえ震えたまま、髪を撫でて頬に触れて、額にキスをした。子供扱いするなと怒るくせに、甘やかすようなこのキスが好きなんだ。
「帰ったら、お前が行きたいと言っていたケーキを食べに行こう。遠乗りも、いい。時間がないとか、恥ずかしいとか言わないから……」
甘い物が好きなウェインの誘いを、気恥ずかしさから断り続けた。遊びに行こうと誘われて、予定が合わなくて見合わせた事も多い。頑張れば時間を空けることくらいできたのに。
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