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どうして、行ってやらなかった。散歩をせがむ犬のようで、それも可愛いとか思って……どうして今更それを思い出すんだ。後悔しか、浮かばないじゃないか。
「ウェイン……何か言え……」
震えながら手を握り絞めて、ひたすら祈るしかできない無力を思い知る。今彼がどんな状態なのかも、アシュレーには分からない。厳しい顔のエリオットのその意味を、知りたくない。
何時間でもそうして、アシュレーは祈っていた。
ふと、意識が浮上した。場所は、宿舎の自室。夕方で、アシュレーは机に伏せたまま居眠りをしていたようだった。
だが、そんなはずはない。思って、ガバリと体を上げると側で「わ!」という声が聞こえる。聞きたくてたまらない声だ。
「もぉ、突然起きるからびっくりするじゃん」
「ウェ、イン?」
ニコニコと、お日様みたいな笑顔の彼がいる。変わらない様子で、元気そうにしている。
だが、そんなはずがない。ウェインは今、ベッドで……
「アシュレー、有り難うね」
「え?」
「来てくれて、有り難う。愛してくれて、有り難う」
「お前、なに言って……」
「う~ん、伝えておかないとなって、思ったんだ。大事だけれど、伝えてるけれど、改めて。僕ね、幸せなんだよ? アシュレーが側にいてくれて、大事にしてくれて」
「止めろお前! なに、今生の別れみたいな事言ってるんだ!」
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