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触れた唇の感触を久しぶりに感じて、体の奥が熱くはなる。ファウストも優しく、そして穏やかに迎えてくれる。欲情を誘うのではないキスは、急速に心を満たしていった。
「髪、似合っている」
「あぁ、うん」
肩にかかる髪を梳かれて、少し恥ずかしくなる。同時に安堵した。これでもいいんだと、思えた。
「怪我はない?」
「ない」
「はは、流石。ちょっと引く」
「おい」
「だって、あの現場はさ。日の高いうちには直視できない光景だって」
「手を抜けなかったんだから、仕方がないだろ」
拗ねた様に言うファウストに笑って、胸元に頭を預けた。久々に感じる匂いが気持ちを落ち着けてくれる。
そっと、ファウストの手が背を撫でた。途端、肌にピリッとした痛みがあって身構える。それだけで、ファウストは手をどけて黒い瞳を眇めた。
「怪我をしたのか?」
「あぁ、いや……」
「座って見せてみろ」
腕を引かれ、ソファーに座る。そのまま剥ぎ取るように服を脱がされてしまってはどうしようもない。
背をみたファウストは、途端に眉根を寄せた。
「軽傷で、痕も残らないから心配しないでくれ」
「どうしてこんな火傷」
「まぁ、火薬庫爆破した時に逃げるのが間に合わなくて、ちょっと」
「おい!」
怒られたけれど、軽く笑って流した。怒られたってもうしてしまったのだから、戻らないし。
「髪もこれのせいか」
「やっぱり、嫌?」
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