時短屋

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それを見て、僕は歩く速度を緩めた。 いまこの時点で青ということは、ここでいくら急いでも、着く頃には必ず赤だ。案の定、ついさっき青だったはずの信号は、カチカチと点滅し、たちまち赤に変わってしまった。 僕は深く長い溜息をつきながら、横断歩道の前までやって来た。ここの信号は、変わるのがやたら早い。大通りで車の交通量も多いので分からなくもないが、それにしても早すぎる。加えて、びっくりするほど、赤の時間が長い。だから、人々は必ずその道の前で、足を止めるのだ。 「新規ご入会キャンペーンやってます~お願いします~」 足を止める人が多いせいか、この付近では何かを配っている人も多い。ちなみに、今日はポケットティッシュを配っていた。 ─── ティッシュなら、いいか…… 「ありがとうございます!」 お姉さんから、ギラついた営業スマイルが飛んでくる。僕は苦笑いしながら、ポケットティッシュを受け取り、そのままカバンの中にしまい込んだ。ふと信号を確認してみたが、まだ赤だった。 ─── 長い。長すぎる。 「新規ご入会キャンペーンです~どうですか~?」 その間にも、お姉さんの声が繰り返される。隣がダメならそのまた隣……お姉さんは、ひとりずつ声を掛けていった。 「新規ご入会キャンペーン~いかがでしょうか~?」 信号はまだ赤。 このセリフは、あと何回リピートされるのだろうか……途方もない。僕の口からまた、溜息が静かに逃げていった。
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