時短屋

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(1) 「はぁ……」 疲れた。 昨日もそうだったが、今日もまた疲れた。 最近、詰まりに詰まりすぎだ。五年も経ったから、さすがに仕事には慣れたけど、慣れた分はきっちり仕事量を足される。だから、結局大変さは今も昔も変わりない。 吸って吐いたら、それで一日終わり。支給される金額の倍以上は、働いている自信があるのに、疲れもポイント制で溜まっていく。もう少しで、ゴールド会員になれそうな勢いだ。 僕は今日も、赤のままの信号機を睨みつけた。朝の通勤時の待ち時間も辛いが、帰りの時間の方がもっと辛い。こうやって待ってる間に、今日あったことが頭の中に次々と流れ込んでくるからだ。 上司から溢れた小言も。 言い渡されたタスクも。 いいことなんて、ひとつも出てこない。 鼻が、ムズムズしてくる。 そのとき、朝貰ったポケットティッシュのことを不意に思い出して、カバンの中から取り出してみた。ポケットティッシュにはチラシが挟まっていて、『買い取ります!』の文字が見えた。 ─── 車か、服か?それとも本か? 様々な憶測を浮かべながら、僕は右の親指をどけた。だが、買い取るのは、車でも服でも、はたまた本でもなかった。 『あなたの時間、買い取ります!』 僕は、首を傾げた。 ─── はて……? 不審に思い、近付けて見てみたが、やっぱり"時間"と書いてある。 そして、チラシの右下に視線を移すと、社名らしきものが印刷されてあった。
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