第2章 リターン

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 月日が流れた。僕にはある癖がつくようになった。彼女の最期を思い出すことが減り、代わりに空を見上げるようになった。太陽も雲もないこの世界の空を見上げて、いると言った彼女の姿を探すのだ。勿論、まだ見つかってはいない。  それからまた時が経った。この頃の僕はもう空を見なくなった。代わりに上を見上げるようになった。何故上を見ているのかも分からない。彼女のことを思い出すこともほとんどない。また、新しい人間がここに来て泣いていても興味を抱かなくなった。かつて抱いていた全ての感情が自分の肉体から剥がれ落ちていた。  そして、僕は記憶と感情を無くし空っぽの人間になった。ただ、上を見上げる行為だけはプロミングされた機械のようにやり続けた。これだけが他の空っぽの人間との唯一の違いだ。けれど、それが何かに影響することはない。  やがて、僕はこの世界で最年長者になった。それでもまだ上を見上げている。
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