信の国

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信の国

「えー、それでは歴史の授業を始めます、んぷ」 小柄な白髪の老教師のか細い声が、授業開始のチャイムにかき消された。特徴的な、語尾の部分だけ聞き取れたが、、、 「ジョー、ジョー」 授業が始まってすぐにも関わらず、背中を指で押してオレのアダ名を連呼してくる奴がいる。 「何だよ、ハル。静かにしないと、また超長距離走の刑をくらうぞ。」 右肩越しに後ろに視線をやると、「ニヒ~」とワザワザ声に出し屈託の無い笑顔をうかべ、オレの忠告を無視して続ける。 「明日の校休はどーすんだ」 「あぁ、半年ぶりの校休だからな、久しぶりに家に帰るよ」 この士官学校は全寮制の学校である。基本的に毎日、授業や訓練があるのだが、半年に一度「校休」と呼ばれる休みがある。大半の生徒は家に帰るのだが、コイツは帰らないのかと思っていると、 「マジっ!?じゃあさ、オレも一緒にいい?いや~、ウチの親が国に帰っちゃってさー、ハルちゃん暇なの」 ハルカという名前の通りの爽やかな笑顔だが、要は暇つぶしだ。あと、男が自分のことをちゃん付けで呼ぶのはいかがなものか。 「あぁ、別に構わないよ。妹もお前に会いたがってる」 「助一(じょいち)お兄ちゃんと、違って妹ちゃん可愛いもんね~。よし!将来、結婚してあげよう」 「それだけは絶対あり得ないから安心してくれ」 妹の安全を確保したところで、か細い声でなされる死刑宣告。 「えー、んぷ。このように信長公は、明智光秀の乱を平定したあと日の本を統一し、んぷ。さらに、朝鮮、明をも手中に収められ国名を[信]と号しました。助一君、ハルカ君、校庭を軽く200キロ走って来なさい、んぷ」 はい、軽く死にますよね、それ。
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