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ハリアーも、ひらりと馬車を降り、小気味良い音とともに地面に立つ。
「えらく優遇されてるな、グラム。よっぽどショバ代、弾んだのか」
彼女が呆れた調子で言うと、道案内の兵士が小さく笑った。
「グラさんは、毎回毎回かなり売り上げて、たっぷり上納金を入れてくれてるからな。王室の覚えもめでたい上得意、ってところだ」
そのグラムが、馬車の座席に掛けたままのプリモに向かって、小さな手を差し伸べた。
「さ、どうぞ、奥様」
「お、『おくさま』?」
思わず鸚鵡返しのプリモは、意図せずにハリアーを見遣った。
ハリアーがさも可笑しそうに口許を緩めつつ、プリモに向かってうなずく。
プリモも特に否定の言葉は発さないものの、わずかなためらいとともにグラムの手を取った。
「あ、ありがとうございます」
プリモが石畳に降り立つと、逆にグラムは馬車に荷台へと跳び乗った。
荷台には、古びて黄ばんだ折りたたみテントと、例の奇妙な黒い箱だけが載せられている。
荷台のグラムは、黒い箱をぽんと叩き、にんまり笑った。
「さて、がっちり儲けさせてもらうとするか」
そして彼は、道案内の兵士に向かって小さな手を差し出した。
「それじゃあ、今回のバザールの見取図を見せておくれよ」
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