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三
「あら、小鳥さん?」
プリモがつぶやいたとおり、この魔道書室に入り込んできたのは一羽の白い小鳥だった。
部屋の天井近くを優雅に舞うその翼は、雪の結晶のように、繊細に煌めく。
小さな体を覆う羽毛の白さも、およそこの世の物とは思われないほど清らかだ。
「まあ、きれい……!」
無心に嘆息を洩らすプリモの見ている前で、小鳥はすぐにテーブルの上へと降り立った。
と、次の瞬間、小鳥は白い紙の折り鶴に変わった。
「あら?」
プリモは、目を何度もぱちくりさせる。
だが純白の折り鶴は、ぴくりとも動かない。
ついさっきまでの生きた姿が、まるで嘘のようだ。
目を瞬かすばかりのプリモを尻目に、メヴィウスは悠然とカップを置いた。
そしてそっと折り鶴を手に取ると、ためらうことなく開き始めた。
「あの、旦那さま。それは何ですか? 小鳥さんはどこに?」
巨大な疑問符を胸中に抱えてプリモは尋ねたが、メヴィウスはこともなげに淡々と答える。
「これは“飛文字(エアログリフ)”だ。特殊な紙に術を掛けて、相手に飛ばす。手紙だよ。こんな手の込んだことをするのは……」
そこで言葉を切ったメヴィウスの顔に、ふと気の進まなさそうな表情が浮かんだ。
主人は、この空飛ぶ手紙の差出人に、心当たりがあるのだろう。
すぐにメヴィウスは折り鶴を開き終え、テーブルに白い紙を広げた。
真四角の紙の裏側には、細かく几帳面な文字がしたためてある。
確かに手紙のようだ。
黙って手紙に目を通したメヴィウスは、椅子から腰を上げた。
「出かけてくる」
いかにも面倒そうに眉根を寄せた彼は、手紙を折り畳んで懐に入れ、プリモに顔を向けた。
その顔には、憂鬱そうな陰が差す。
が、反面、主人が作った渋面の中に、抑え込まれた期待のようなものがちらちら覗く気のするプリモだった。
それでもプリモは、使用人としての本分を守り、最低限の一言だけ尋ねる。
「どちらへですか?」
「ラメッド台地だ」
このよく知る地名を聞き、プリモの胸にきゅんと自覚しない痛みが走った。
うなだれる首を必死に支え、プリモは真っすぐにメヴィウスを見る。
「それでは、白耀龍(パール・ドラゴン)の“神殿集落”に?」
「ああ。俺を呼んでいる」
うなずいたメヴィウスは、深い吐息を一つ容れ、面倒そうに首を振る。
「どうせつまらない用事に決まっているんだが、無視はできない。ああ、難儀だ」
口ではそう言うメヴィウスだが、寄せられた眉根に反して、目許は笑っている。
プリモは思う。
……神殿集落に行くときのメヴィウスは、いつもそうだ。
やはり本当は、神殿集落に行くのが楽しいのに違いない。
メヴィウスが少し冷めた珈琲を一気に飲み干して、めまいをこらえるプリモに向き直った。
「なるべく早く帰ってくるから後は頼む。夕食は要らない。ハリアーのことも、しっかり見ててくれ」
「あ、あの、旦那さま。お話を……」
ハッと気を取り直し、プリモは食い下がった。
が、メヴィウスは否定的に首を横に振る。
「ああ、済まないが帰ってからにしてくれ。今は急ぐんだ」
そう言われては、使用人のプリモに二の句は告げない。
プリモは是非なくうなだれた。
しかしすぐにスッと顔を上げ、プリモは姿勢とともに気持ちを整える。
主人が気持ちよく出立できるように、明るい笑みを作って大きくうなずく。
「はい。分かりました」
「済まない、プリモ」
メヴィウスが本棚のフックに引っ掛けられた黒い外套を取った。
小皿に残ったマーブルクッキーをさくっと口にくわえ、プリモに最後の一瞥を向ける。
「それじゃ、行ってくる。プリモの話は帰ってから、ゆっくり聞くよ」
「はい」
プリモは精一杯の笑顔を湛え、深々と頭を下げた。
「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
さっと外套を羽織ったメヴィウスは、ぶつぶつ繰り言しながら魔道書室を立ち去ってゆく。
「ああ、そうだ。ハリアーの奴にも言っておかないと」
そして魔道書室のドアは閉じられ、プリモは物音一つしない小部屋にぽつりと取り残された。
文字どおりの置いてけぼりを食らって、胸は塞がり、自然と吐息が洩れる。
だがすぐに顔を上げると、プリモは空の珈琲カップと小皿をトレイに載せ、魔道室を離れた。
プリモは食堂にトレイを置くと、ハリアーが待つ自室へと戻った。
部屋に入ってみると、椅子に跨ったハリアーが、テーブルに載せたぬいぐるみと何やらにらみ合っている。
傍から見たら乙女ちっくな構図だが、何故だかハリアーの表情は真剣そのものだ。
不思議に思いつつも、プリモはハリアーに声をかけた。
「お待たせしました」
プリモが後ろ手にドアを閉じた途端に、ハリアーの気遣わしげな問いが飛んできた。
「どうしたの? しょんぼりしちゃって」
ぬいぐるみを手にしたまま、ハリアーが出窓の外をチラ見する。
「さっきメヴィウスが来て、出かけるからおとなしくしてろ、みたいなこと言ってたけど。何だかカビた干しあんずみたいな、食えない顔しちゃってさ」
ひどい形容を口にして、独りうぷぷと笑ったハリアー。
彼女は両手で持ったぬいぐるみをテーブルに置いて、プリモに再び紫紺の瞳を向けてきた。
「それでプリモ、アイツにあの話はできた?」
プリモはベッドの縁にちょんと腰を下ろし、目を伏せて小さく息を吐いた。
その落胆しきったプリモを見て、向き直ったハリアーがまじまじとプリモを見つめる。
「あら、どうしたんだい?」
ため息交じりのプリモが経緯を話すと、ハリアーは椅子の背もたれの上で腕組みした。
「ラメッド台地の神殿集落、って言ったら、この大陸の南西の端っこだったよな」
「ご存知ですか?」
「まあ、あの街は、この大陸でも最大の龍の本拠だしね」
ハリアーが素っ気なくうなずく。
「“中央万神殿(ラ・パンテオン)”って、バカでっかい神殿があってさ、龍族の祭儀も半分はそこでやるから、あたしも行ったことあるけど」
ハリアーは両手を頭の後ろに組んだ。
そして口許を曲げて、ふん、と鼻を鳴らす。
「また遠くまで出かけて行ったな。たぶん飛んで行ったんだろうけど、アイツがいつ帰ってくるかは分からない、ってことか」
んー、と唸ったハリアーだったが、すぐにあっけらかんと言い放った。
「考えててもしょうがない。明日の朝まで待って戻ってこなかったら、いいから出かけよう。プリモの身は、あたしが全力で護る。アイツの文句も、全部あたしが引き受けるよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
プリモは感謝の視線を自信たっぷりのハリアーに注ぎ、深々と頭を下げた。
「ああ。任せときなって」
うなずいたハリアーが、犬歯をきらりと光らせて、にっと笑う。
が、すぐにその自信と気風に溢れた笑みは、すぐに消えた。
ハリアーがじっとプリモに注ぐ視線も、どことなく重苦しい。
ハッキリキッパリのハリアーにしては、変に歯切れの悪い口調で、プリモに聞く。
「ところでさ、ヘンなこと聞くけど、この塔ってホントに誰も来ない?」
確かにおかしなことを聞く、とは内心思いつつも、プリモは正直に首を縦に振る。
「はい。商人さんと冒険者さま以外は、どなたもいらっしゃいませんが。それが何か?」
「うーん、大したことじゃないんだけど」
珍しく口ごもったハリアーが、テーブルの上のぬいぐるみに目を向けた。
プリモお手製のぬいぐるみをじっと見ながら、ハリアーが慎重な口調で疑問を吐露する。
「プリモ、メヴィウスに育てられたんだよね? あの無神経に育てられて、プリモ、こんなに可愛くなるかなあ、なんて思っただけ」
プリモの胸に、この日何度目かの痛みが走った。
あまり触れたくはない話だが、隠すほどでもない。
彼女は重く沈んだ楕円の瞳を床に彷徨わせて、ハリアーの問いに正直に答える。
「本当は、わたしを育てて下さった方が、もう一人いらっしゃるんです。“セフォラ”さまとおっしゃる、とてもお綺麗な……」
わざと未完で切った、プリモの告白。
「なるほどね……」
どこからしくない微かな笑みを口元に湛え、ハリアーが小さくうなずいた。
彼女がプリモに注ぐ紫紺の目には、いたわりと気遣いがいっぱいに溢れている。
どうやらハリアーは、すべてを理解したらしい。
椅子の背もたれに頬杖をつき、ハリアーが深い吐息をつく。
「セフォラなら知ってるよ。確かあたしと同い年の白耀龍(パール・ドラゴン)だね。ちょっと強情なトコもあるけど、のんびりした可愛いコだ。セフォラとアイツって、親同士が決めた婚約者なんだよな」
『婚約者』という言葉、そしてハリアーの続ける独白が、プリモの耳にほろ苦い。
「メヴィウスんちは、オヤジさんが黒龍(ブラック・ドラゴン)で、おフクロさんが白耀龍だったっけ。この婚約話、セフォラのお父ちゃんから持ちかけた『投資』だとかで、ホント、ワケ分かんないよな。まあ色の違う龍同士の結婚は普通だし、メヴィウスの才能だけはホンモノだから、驚きゃしないけど」
ハリアーが、苦笑の混じった吐息をついた。
何となく揶揄したような雰囲気が漂うが、どこか遠慮がちに響く。
「アイツが婚約話を受け入れた、って聞いた時は耳を疑ったけどね。アイツ、『後援者(パトロン)はいた方がいい』、とか何とか言ってたらしいけど。ま、ちょっとだけ安心したんだけどさ。アイツも男なんだなー、って」
どこかお姉さんめいた息をつき、ハリアーが嫌味なくへへっと笑った。
「手芸と料理が好きな、メヴィウスにはもったいないくらいのいいコだもんな、セフォラは。それ聞くと、今のプリモの性格もよく分かるよ。いろいろ教えてもらったんだね?」
こくりとうなずき、プリモはうつむいた。
唇を噛む彼女の胸の内に、奇妙な感覚が湧き上がる。
感謝と、それに何と呼ぶのか分からない息苦しさが、胸の中で渾沌と蟠る。
しかしプリモは大きく息を吐き、心の澱をすべて吐きした。
すぐに顔を上げたプリモは、努めて明朗に答える。
「普段はラメッド台地の神殿集落にお住まいの方ですが、半年間ご滞在になって、お掃除とか、お料理とか、お洗濯とか、たくさんのことを教えて頂きました。それに、使用人の心得も……」
相手を上目遣いに見るプリモの癖に気付き、そっと諭してくれたのも、セフォラだった。
楕円の瞳が曇り、胸の内側がしくしく疼くのが自分で分かる。
それでもプリモは、気丈に胸を張って、努めて冷静に付け加えた。
「……今は、月に一回、旦那さまの様子を見にいらっしゃいます。二日ほどお泊りになって、家事全般、旦那さまのお世話を。旦那さまからお出かけになることは、滅多にありませんが」
「なるほどね。白耀龍の一族は、家庭を大事にするからなー」
ハリアーは納得顔で何度もうなずいた。
と、そこでにんまりと笑ったハリアー。
「ホントはレース編みも、セフォラから教わったんだろ?」
「いいえ、それは本当に旦那さまから教わっています」
ハリアーの冷やかしに、プリモは真顔で答えた。
そんなプリモの真面目な顔を見て、ハリアーがうぷぷ、と奇妙な笑いを容れた。
そして、よっと声を上げると、彼女はパッと立ち上がる。
「さっ、あたしも行かなきゃ」
「あの、どちらへ行かれます?」
プリモが尋ねたその口調には、やはりどこか寂しさが滲んでしまう。
眉根を寄せたプリモを元気付けるように、ハリアーが紫紺の瞳を活き活きと煌めかせ、明るく告げる。
「急いで明日の準備の買い出しに行ってくるよ。あんまりゆっくりしてると、帰りが遅くなっちゃう」
そう言って、ハリアーが出窓の外に目を移した。
プリモも、彼女の視線を楕円の瞳で追う。
ガラスの向こうに無限の広がりを見せる湿地帯は、ぼんやりと霞んで見える。
しかし雨は降っていないようだ。
すぐにハリアーが笑顔で向き直った。
「日没には必ず戻るからさ」
「分かりました。お気を付けて」
素直にうなずき、プリモはハリアーに向かって深くお辞儀した。
ハリアーも笑顔で軽く手を振ると、プリモの部屋を足早に出て行った。
たった独り、午後の黒龍の塔に残ったプリモ。
しかし彼女は、黙々と働く。掃除洗濯、庭園の植栽の世話まで、プリモは生真面目にこなしてゆく。
幸い、“冒険者さまご一行”の襲来はなかったものの、家事というものは意外と時間を使う。
息つく暇もなく働いたプリモが厨房の椅子に座った時には、すでに陽が傾き始めていた。
一息容れたプリモが、初めて自分のために湯を沸し始めた時だった。
食堂と屋上の庭園を繋ぐドアが開く音が響いた。
続けて、階段からコツコツと足音が聞こえてくる。
それを耳にするなり、プリモはぱっと椅子から跳び上がった。
そして期待と喜びに胸を膨らませ、まるで子犬のように厨房を跳びだした彼女は、大きく弾んだ声を上げた。
「おかえりなさい!」
食堂で出迎えたプリモの前に現われたのは、女賞金稼ぎハリアーだった。
「ただいまぁー」
ハリアーの朗らかな声に反して、プリモは心ならずも一気に落胆した。
彼女の気落ちは顔にも表われたのだろう。
にっと笑ったハリアーが、からっとした口調でプリモを冷やかす。
「期待ハズレだった? その顔だと、メヴィウスのヤツはまだみたいだね」 「え? あ? え?」
図星を刺され、プリモは顔に焼けるような熱を感じた。
目いっぱいの恥ずかしさを覚えた彼女は、うつむいてハリアーに侘びる。
「ご、ごめんなさい」
「いいのいいの。あたしとプリモの仲なんだから」
特に気にした風もなく、ハリアーがいつものようにあっははは、と笑う。
そして、はあ、と大きな息を吐いた彼女が、食堂の椅子にどっかりと腰を落とした。
いつになく鈍いハリアーの動作には、激しい疲労感が漂う。
手足を動かすのも、かなり億劫そうだ。
「あの、大丈夫ですか?」
プリモが気遣うと、ハリアーは、あはっと笑って大きな布の包みをテーブルに置いた。
「平気平気。でも、やっぱり時々は飛ばないとダメだね。久しぶりにまともに飛んだら、肩こって」
気だるげに肩をぐるぐる回したハリアーは、へへっ、とばかりにちょっと舌を出した。
だがすぐに真顔に戻った彼女が、食堂に苛立ちの視線を巡らせる。
「それにしても、メヴィウスのヤツ、何を長居してるんだろうな、全く」 「ご無事ならよいのですが……」
プリモはうなだれた。
実のところ、メヴィウスがいきなり塔から出て行ったきり、一日二日帰って来ないことは、それほど珍しくもない。
おまけに今回の行先は、主人もよく知る場所だ。不安に駆られる要素など、全然ない。
そのハズなのに、何故かプリモの気持ちは落ち着かない。
胸のざわめくプリモを尻目に、ハリアーがけらけらと笑う。
「アイツならよっぽど大丈夫。今はココに引きこもってるけど、昔は放浪してた時期もあるからさ」
プリモの不安を軽く笑い飛ばしたハリアー。
何だかメヴィウスのことは、ことごとく知り尽くしているような、そんな余裕の表情だ。
ハリアーの訳知り顔を見て、プリモはふと気になった。
……どうして彼女は、こんなに主人のことを知っているんだろう?
プリモは思い切って尋ねてみることにした。
プリモはハリアーの向かいに座り、横向きに腰掛ける彼女を上目遣いに見つめた。
そして恐る恐る、控えめながら、つい疑り深く問いを投げてみる。
「あの、ハリアーさん。ハリアーさんは、旦那さまとは、どういうご関係ですか?」
「ん? 『どういう関係』?」
プリモの質問を繰り返したハリアーが、一瞬きょとんとした顔を見せた。
しかしすぐに小さく唸ったハリアーが、頭の後ろで両腕を組み、天井を仰ぐ。
「そうだねえ、あたしらの世代の龍は、みんな兄妹とか、従姉弟みたいなもんだからねえ」
「『きょうだい』、ですか?」
プリモが彼女の言葉をなぞると、ハリアーがプリモに目を戻してうなずいた。
「あたしら龍は、全部で数千人くらいのものすごい少数民族でさ。それが四つの大陸に散ってるから、一つの大陸にいる龍は、千人くらいしかいないんだ。その中で、あたしと同じ世代の龍っていったら、それこそ十数人くらいしかいなくてさ。だから、あたしらはみんなつながりが強くてね」
ハリアーが続ける。
「メヴィウス、この塔を建てて引きこもる前は、あちこちいろいろ探し回ってた時期があってさ。あたしもまだ賞金稼ぎ始める前で、アイツの探索の護衛を何度もしてるんだよ。この塔を構えてからも、ちょくちょく手を貸してる。その代わり、あたしはこの塔を時々宿にしててさー」
そこでハリアーが肩をすくめた。
「メヴィウスとは性格も考え方も、職能(スキル)だって正反対だから、仲は……、まあ微妙だね。お互い腕だけは、認めてると思うけど」
ハリアーの独白を聞き終えたプリモは、軽く目を伏せ、ホッと胸を押さえた。
もやもやした気持ちの霧はおおむね消え去り、いがいがした喉元の痞(つか)えがすとんと落ちたのを感じた。
と、プリモは頬をくすぐる視線に気が付いた。
向き直ってみると、ハリアーがにやにや笑いでプリモを見ている。
「あ、なに? プリモ、もしかしてあたしとアイツがデキてる、って思ってたりした?」
途端にプリモは、顔が一気に火照るのを覚えた。
「あ、いえ、わたしはそんな」
ぶんぶんと首を何度も横に振り、中途半端な弁解をしたプリモ。
自分の頬が、やけに熱過ぎる。
決まり悪さと恥ずかしさに覆われて、プリモは椅子の上で首をすくめた。
ははははは、とお腹を抱えたハリアーが、遠慮のない大きな声で笑う。
「ないない。あたしは魔術とか魔術師がキライだし、あたしにも好みと選ぶ権利ってものがあるんだから」
そこで、ハリアーがもう一度頭の後ろで腕組みした。
「にしてもアイツ、ホントに遅いな」
深く組んだ長い脚に、頬杖を付いたハリアー。
思案顔を見せた彼女だったが、すぐに顔を上げ、あっけらかんと言い放った。
「来ないものは来ないんだから、仕方ないな。明日は朝早く出かけるからさ、後で準備しようね」
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