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吹いた風に、春のにおいがした気がして足を止めた。
塾の帰り。2月後半の夜はまだまださむい。私は制服の上にコートを着て、赤いチェックのマフラーを巻いている。でもかすかに感じたのだ。風の中に、春のにおいを。
もう一度、ちゃんと確かめようと思って、上を向いて息を思いっきり吸い込んだら後ろから衝撃が。
振り向くと、同じ塾でクラスメイトの高畑が立っていた。
「あ、北沢。ゲームしてて前見てなかったわ、ごめん。」
スマホの光が高畑の顔を下から照らしていて、思わず笑ってしまった。
「なんか高畑、そうやってると顔が青白くて幽霊みたい笑」
「うるせえよ、てか北沢お前なにやってんの??」
高畑に聞かれて、春のにおいについて話そうか迷う。
馬鹿にされたら嫌だなー…そう思いながら言ってみた。
「まだ冬なのに、さっき春の風のにおいがしたんだよ!!!すごくない!!?」
…少しの沈黙。馬鹿だと思われたかな…不安になって横を歩く高畑の顔を見上げた。
「…本当だ、春のにおいがする。てか今日の月、きれいだな。」
高畑がこっちを向いて笑う顔に少しどきどきする。
赤くなった顔を見られないようにマフラーを口元まで上げて私も空を見上げた。
「本当だ、すごい満月」
なんとなく2人で並んで、話しながら駅へ向かった。
もうすぐ改札についてしまう。
春のにおいをわかってくれた高畑と別れるのが名残惜しくて、高畑の方をちらっと見ると高畑と目が合った。
「あんま話したことなかったけどさ、北沢って面白いな。もっと話してみたいわ。」
じゃあな、と笑って高畑は反対のホームに消えていった。
私もホームまでの階段をかけ上がり、もう一度春のにおいを思い切り吸い込んでから、電車に乗り込んだ。
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