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そして、とうとうライブの日がやってきた。
本番30分前。開場とともに客も一斉に入ってきて、あっという間にチケットはSOLD OUTした。
この日のZillの出番は5バンド中3バンド目。客にインパクトを与えるにはちょうどいい出演順だ。
4人は楽屋で本番まで待機している。リョウは自分の足をスティックで叩いて練習し、タケルとアツシはそれぞれの楽器を調整している。そんな中、ケイだけは鏡の前に座り、ずっと目を閉じていた。女でもまれにみない、綺麗な顔立ちと白い肌。
聞き取れないが、小さな声で何か言っている。まるでまじないでも唱えているようだった。
何考えとるんやろコイツ。
タケルはケイに声をかけようとしたが、やめた。
あの日メンバーで飲み会をしたときにケイが流した涙。ケイはそんな事全く覚えていなかった。自分が泣いていたと教えられると申し訳なさそうに謝るだけだった。やっぱりただ酒に酔っていただけなのだろうか。
『もうおいていかないで』
その言葉が耳から離れない。ケイはいったい何を抱えて生きているのだろうか。その時のタケルにはまだ何も分からなかった。
――Zillの前のバンドが終了し、転換の時間となった。ホールの中はいっぱいの人で埋め尽くされ、冬なのに熱気が漂っている。
「Zillって誰のバンド?」
「…のギターとベースが新しく組んだバンドらしいよ。」
「あぁ、どうりで初ライブなのに客多いわけだ。レベル高いの?」
「さぁ。ヴォーカルによるんじゃね?。前のヴォーカルいまいちだったし。」
「新しいヴォーカルって誰?」
「新顔だろ。どうせたいしたことないって。」
後ろの方の客が次々と話をする中、前の方では前バンド時代からのアツシとタケルのファンである女の子たちが陣取っていた。
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