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数ヶ月後、ライブハウスの壁にはZillのポスターが張り出された。
回を重ねるごとに力を増していくZillのライブには常連客もつき、かなりの動員数を記録していた。瞬く間に広まっていくZillの名前。
まさに、異常な早さ。
その名前が業界関係者の耳に届くのも遅くはなかった。
「東京へ出てきてみないか」
そう言われるたび、アツシはそれを拒んだ。
「東京に出ていって失敗したらもう取り返しつかん。ここでしっかり俺らの存在を固めとかなあかんねん。上京はまだ早い。」
メンバーにそう言っては真剣な顔つきで何かを考えていた。
―――初ライブから半年後、もう季節は梅雨になっていた。
この日のライブは地元でも動員数1位、2位を争うバンドとのツーマン。6月の目玉イベントとしてその地域では一番のデカさを誇るキャパのライブハウス側が企画したものだった。開場前から入り口の周りには長蛇の列ができている。
いつものように和やかな空気が流れるZillの楽屋。半年も経ち、メンバー間の中もだいぶ深まってきていた。特に、タケルとケイは兄弟の様に親しくなっていた。
「俺、飲み物買ってくるね」
そう言って控え室を出ていったのはケイ。その何秒か後で、タケルもタバコが無いことに気づき、ケイの後を追った。
―――
「ケイー」
「タケル?何?何か買ってきてほしいもんでもあるの?」
「いや、俺もタバコきれたから買いに行こうと思って。」
そうか、っとケイが微笑み、二人で楽屋からちょっと離れた自販機のコーナーまで歩いていった。
「なんか今日緊張するなぁ、ツーマンとか初めてやん!」
「そうやなぁ。」
そんな事を話しながら自販機のコーナーへ行くと、そこでは対バン相手の4人がベンチに腰掛けていた。
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