1、詰んだ私の事情

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 それでも漫画を描くことは楽しくて、作品をネットの無料サイトに投稿したり、それで閲覧者から反応をもらったりと毎日が充実している。  漫画はいい。自分の世界とキャラクターを動かして、人を楽しませることができる素晴らしい文化だ。  しかし、その漫画を描き続けるためには働かねばならぬ。できれば働かずに漫画だけを描いて生きていきたいでござるよ。 「貯金もあまり無いし、社員として就職したいけど……とりあえずバイト探すか」  はぁっと吐いた息は真っ白で、それがなんだか無性に悲しくてじんわり涙ぐむ。いかんいかん。前向きにならないとダークゾーンに入ってしまうな。闇堕ちダメ、絶対。  温かいお茶でも飲んで落ち着くかと喫茶店に向かおうとして、ふとその隣にある文具店に目がいく。 「ワゴンセールしてる……うわ、懐かしいなこれ」  ワゴンには『初心者漫画セット』なるものがセール品として置かれている。原稿用紙にインクとペンがセットになっているものだ。私も昔お世話になったなぁ。 「久しぶりに、アナログで描くのも楽しいかも」  今はパソコンで絵画用ソフトを使って描くのが当たり前になってしまった。事務仕事の契約が終わったことでしばらくは時間が出来るから、アナログで描いてみるのも楽しいかもとウキウキした気分で購入を決める。     
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