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プロローグ
虹(にじ)村(むら)真白(ましろ)は、真っ白(・・・)だった。
絵の具でむらなく塗られたような、少し透き通った白で、瞼を黒目に通しても、通しても、それが変わることはない。
オレはおもわず、首を傾げていた。
虹村と視線が絡む。彼女は固まってしまった。夏休み前、あんな態度を取ってしまったからだろうか。視線を外す。速足で通り過ぎ、席に着く。
「……鷺沼くん、おはよ」
橙色の笑顔。でも、どこまでも真っ白な笑顔。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
首の後ろ辺りを指でかき、そう告げた。頬杖をついて虹村のほうを横目で見る。彼女はクラスの女子に囲まれ、談笑している。皆、橙色の感情、喜びや楽しみを表す感情を出している。反対に虹村の感情の色だけは一向に変わることがなく、ため息を吐いてしまう。すると虹村と目が合い、彼女は唇を尖らせた。
輪から抜け、こちらに近づいてきた。
「ワタシの顔見てため息吐かないでよ」
「ごめん」
「もしかして、見惚れてたとか?」
「なに言ってんだよ」
得意げな笑みを浮かべる虹村に、目をそばたてて言う。虹村は「ふふっ」と失笑する。
「やっぱり、鷺沼くんは面白いね」
彼女は大きな瞳を細め、唇の端を上げる。
それでも、感情は真っ白のままだが。
前の虹村は感情の変化が激しく、かつ輝きも強かった。けど一転し、従前まで見たことのない真っ白な感情。まさに感情を識別できない人間。これこそ、一番求めていた存在のはずだ。
でもオレは……再び大きくため息を吐いてしまう。
それは彼女の――をしていたからかもしれない。
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