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第一章 色の輝き
左右から幾つもの桜が咲き誇っていた。その道を新入生と思しき人々が歩みを進める。
それに比例して視界には橙色や黄色など、さまざまな感情がひしめき合っていた。目が痛いことこの上なく、酔いそうになって地面を向く。高校生生活初日から、鉛がついているのではないかというほど、足の運びが重くなっていた。
そんなとき、体を軽く押されるほどの強風が吹く。
石鹸の香りがした。
目の前にいる女子の長い黒髪。その一本一本が生きているかの如く、悠々と踊っている。すぐに目線を側めると、一つの花びらへと視線が止まる。目の前の女子のつむじへ不時着してしまう。彼女はそれに気づかない。
そっと目を逸らしたけれど。二度見、三度見。……ため息をついてから、前にある肩を突つく。彼女はピクリと体を震わせた。
「あの」
「はい?」
彼女は振り向く。その拍子に落ちてくれるのではないかと期待したものの、そんな都合の良いことは起こらなかった。小さく息を吐く。
「えっと、頭に桜が乗ってるよ」
指で位置を示せば、彼女は手で探り始める。
「……あ、ほんとだ。ありがと!」
摘み上げたら、彼女の感情が緑色になった。緑色は感謝を表していて、発色があまりにも強く、つい目を細めてしまう。
お礼を言い、彼女は前を向きなおした。
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