第一章 色の輝き

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「おかえり、お兄ちゃん」 「……ただいま」 「なんか汗だくだね。シャワー入ってきたら?」 「うん」  すぐに返事をして通り過ぎようとすれば、彼女は両手を広げて遮ってきた。 「……顔色悪いよ? なにかあったの?」 「……なんでもないよ」  ぶっきらぼうに告げ、首の後ろ辺りに手を運ぼうとしていた。そのとき、以前に指摘されていたことに気がつき、途中で手を止める。だけどもう遅かったようで。水色の感情が視野に入り、そっぽを向いてしまう。 「なにかあったんだね」 「……なにもないよ」  すると詩織は接近してきて、シャツの裾を引っ張ってきた。 「……なんでいつも、なにも話してくれないの?」  オレはぶっきらぼうにこう告げた。 「話す必要がないからな」 「……ほんとにそう思ってるの? 私たち、兄妹だよね」 「義理のだろ?」  即答して一睨みすると、詩織は口を閉じた。よく見ると、目じりに涙が溜まっていた。 「……義理とか関係ない。だって私にとってお兄ちゃんはお兄ちゃんだけだもん」 「それはお前がそう思ってるだけだろ? オレは詩織のことを、一度も家族だと思ったことなんてない。それにオレにはもう、家族なんていないから」  そう無機質な声音で告げる。詩織からは二本の涙が零れていた。 「そっか、私のことそう思ってたんだ」 詩織はシャツから手を外し、俯きがちに言う。オレは口を噤んでいた。すると彼女は靴を履き、目を擦りながらドアを開ける。 「じゃあ私、買い物行ってくるから……色くん」  詩織は笑顔で家の外へと出ていく。感情は見たことがないほど、濃い水色だった。 歯を食いしばり、思い切り壁を殴る。  夕食の時間になり、リビングに向かう。詩織がいた。一人で黙々と食べる詩織が。いつもなら呼びに来てくれるのに。口を噤んで斜め前の席に着く。 夏休みの始まりとともに、オレには家族がいなくなった。
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