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第二章 決断
二学期の始業式を終えた放課後。オレは亮とラーメン屋で昼食を取っていた。なぜこんな暑い日にラーメンを食べなければならないのか。そのことを言及すれば亮曰く、「夏こそやっぱラーメンだろ」とのことだ。
最初は渋っていたものの、いざ食べてみると案外悪くなかった。室内の冷房は寒いくらいにきいていて、軽く舌を火傷しそうなこってりとした豚骨スープの熱さは、むしろ心地よいほどだ。
「うまかった」
紙ナプキンで口を拭きつつ呟く。一足先に食べ終えていた亮はスマホ片手に小さく笑い、こちらを向く。
「な? 夏のラーメンも良いもんだろ?」
「だな」
頷いて口に水を含んでいると、視界の橙色は密度を増していった。
「お前さ、夏休み真白ちゃんと遊んだの?」
亮はスマホ画面をスクロールしながら、前触れなくそんなことを尋ねてくる。そのせいで口に入っていた水を多少噴き出してしまった。亮は虹村のことを『真白ちゃん』と呼んでいるが、男女問わずにそんな感じなので、特に口出ししない。
「はあ? そんなわけないだろ」
即座に否定する。こちらを凝視しながら、亮は唇を尖らせていた。
「へー、そっか」
「ていうか、なんでそんな話になるんだよ」
「いやーだって最近、なんかお前ら良い感じじゃん?」
唇の片端を上げながら言われ、オレは表情を歪ませてしまう。
「……どこがだよ」
「だってほら、帰りとかよく一緒に帰ってるしー」
「それは委員会があったからで――」
そこまで言って、オレは口の動きを一度止めた。
「おい、なんで知ってるんだよ」
「風の便りでな。お前、気をつけた方が良いぞ?」
「なんで?」
「なんでって、真白ちゃんは俺と同様、モテるからな」
亮は鼻を高くして言う。オレは嘆息を漏らしてしまった。
「あっそ。で、それのどこに気をつける要素があるんだよ」
答えを急かすように聞く。すると亮は一変して神妙な顔つきになる。
「そんなうかうかしてっと取られるぞーってことだよ。真白ちゃんを」
声色は明るいものの、橙色の感情はなくなり、なぜか少しだけ紫色が出ている。
「知らないよ、そんなこと」
「お、もう俺のものだ! っていうことですか? やるねー!」
顔は笑顔を浮かべている。感情が紫色から変わることはないのだが。
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