61人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
最終章 真実の色
目指すは三つ先の駅。電車の走る音ばかりが耳に届く。外を眺めていてもキラキラと光る海ばかり。繰り返し映し出されているようで。左腕に触れる細胞の暖かさを感じながら、瞼を下ろす。それでも電車は停止し、となりにある肩を優しく揺らす。
「着いたぞ、虹村」
「……うん」
「あと十五分くらい歩くから」
「分かった」
目を擦りながら頷いている虹村。やはり昨日、あまり眠れなかったのだろう。
それからの道のりは、互いに口を閉ざしたままだった。少し険しい坂道を進み、平地に戻るとそこには、ぽつりと孤独に立っているアパートがあった。一応地図アプリで確認してみても、やはり間違いないようだ。
「着いた」
「そうみたいだね」
振り返って報告する。虹村は建物を見上げながら答える。
二人で見合って頷き、それから同時に一歩を踏み出した。
駒井のメッセージには203号室と記入されており、オレが先導して階段を上っていく。その際に鳴り響く金属を介した足音はカウントダウンのよう。オレたちは表情をこわばらせていた。
玄関の前に立つ。虹村に目配せをすると、彼女はゆっくりと縦に首を振る。オレは正面を向き、少しだけ湿った指でインターフォンを押した。
「はい」
女性にしては少し低い声色がドアの奥から聞こえた。施錠を解く音とともにドアが開く。
そこには、皮だけが被ったようにやせ細った、四十代くらいの女性がいた。
「……真白ちゃん、久しぶりね」
この女性が仁美のお母さん、千里さんに間違いないようだ。
「……お久しぶりです」
「……えっと、となりの方は?」
「あ、どうも。虹村の友達の鷺沼色と言います」
「あ、そうなんですね。あなたも仁美に会いに?」
「はい。虹村の親友と聞いたので」
「そうなの。きっと仁美も喜ぶわ。さ、狭い家だけど上がって?」
橙色の感情で促され、「おじゃまします」と挨拶をして中へ入る。廊下を進んだ突き当たりに一部屋あり、そこには仁美さんの仏壇が、可愛らしくピンクで彩られ、ひときわ目立つように置かれていた。
虹村が終えてからオレも鈴を鳴らし、合掌する。
「今、お茶出しますね」
「はい、ありがとうございます」
周囲を見渡せば、仁美さんのものとしか思えない服やバックばかりなことに気がつく。
「はい、どうぞ」
白いテーブルに三つの麦茶が置かれる。手に持っていたお盆をそのまま抱え、千里さんは座った。
最初のコメントを投稿しよう!