甘い記憶

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パウダー入りのサラサラとした塗り心地のハンドクリームを塗られた薬指は、いとも簡単に指輪を手放した。 彼は私の指から外した指輪をちらりと見て、自分のポケットへ入れた。 私は途端に目頭が熱くなり、彼から視線を外して外を見た。たしかに喧嘩も多いけど私は可愛げないし、でもイキナリ指輪取ることないのに。 彼は私の右手に丁寧にハンドクリームを塗っていき 「左手も貸して」 と言った、と同時にギュッと左手を自分の方に引き寄せてハンドクリームを塗り始めた。 マッサージをするような手つきで、クリームをつけながら揉んでいく。 彼が私の手を離したので、私は反射的に彼を見た。 どうしたの?というように。 彼はポケットに手を入れて、それをおもむろに出すと私の左薬指へと滑り込ませた。 「え?は?」 追いつかない脳みそは置き去りにされたまま、彼が言った。 「結婚しようか」 私の左薬指には、2つの指輪がはまっていた。 一つは小さな石がついた指輪。 もう一つは、さっきまで私の右手についていたシンプルなプラチナの指輪。 私の絶望は一気に希望に変わった。 悔し涙は嬉し涙に変わって。 怒りは笑顔に変わった。
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