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だが、その日は違った。駅を出たところで会社の先輩に出会ってしまったのだ。橋下先輩は美人で世話焼きだし、面倒見がよくて、社内の評判はとてもいい。
奈苗も悪い人ではないと思っている。が、ある理由で、この人のことが苦手だ。とは言え、顔をあわせて挨拶もしないというわけにはいかない。
「おはようございます」
「おはよう」
目的地も同じだから、とうぜん、ならんで歩くことに。
「橋下さん。なんか、このごろ、顔色が悪いですね。体調悪いんですか?」
ここ二、三ヶ月、橋下は会社でも元気がなかった。なんとなく心配事がありそうに見えた。
気にかかっていたので、たずねてみた。
会社へむかって歩きながら、橋下はため息をつく。
「そうなの。ストーカーにつきまとわれてるのよね」
「ストーカーですか?」
「元彼なんだけど、しつこく電話かけてくるし、この前は家の前で待ちぶせしてたし……ナイフつきつけられて、殺されるかと思った」
ストーカーに命を狙われている。
だから、わたしが、あんなものを見たんだろうかと、奈苗は考えた。
「危ないじゃないですか。それ、警察に相談しましたか?」
「したけど、危険性はないとかで、動いてくれないのよね。厳重注意しておきますとは言われたけど……」
そんな話をするうちに踏切まで来た。
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