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あいかわらず、遮断機でふさがれている。朝の出勤の人たちが大勢、待っている。だが、駅から来たほとんどの人は、そのまま歩道橋のほうへ歩いていく。
カンカンと耳ざわりな音が、あたりにひびきわたっていた。
この音がキライだ。
あのときのことを思いだしてしまう。
カンカンカン。
カンカンカン。
その音をぬって、ときおり轟々と猛スピードで列車が左右に通りすぎる。
「橋下さん。歩道橋から行きませんか? 待ってても、いつになるかわからないし」
奈苗はあせって、橋下をさそった。
この場所に橋下と二人で立っていることが、とても不吉な気がしたのだ。
橋下は奈苗の声が聞こえていないのか、ストーカーの話を続けている。
「でも、大丈夫よ。アイツはもう現れない。ちゃんとカタはつけたから。絶対に、わたしの前に出てくることはないの」
「別れ話に納得してくれたんですね。それは、よかった。じゃあ、もう安心ですね。それより、むこうの歩道橋をーー」
そのとき、けたたましい警報機の音がやんだ。
すうっと、遮断機があがっていく。
奈苗は息をのんだ。
来た。スキマ時間だ。この時間に、ここを渡ることができれば、たしかに会社へは早くつける。でも……。
そこにいた人たちは急に、しんと静まった。みんな、あのウワサを知っているのだ。待ってはみたものの、いざ、そのときが来ると、渡ることをちゅうちょする。
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