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◇◇◇
「ねぇ、有美」
「んー?」
私たちは、いつもの喫茶店で、氷が溶けて薄くなったアイスコーヒーを飲んでいた。
先ほど撮った写真の加工に夢中な有美が、生返事を返してくる。
「あのね、話してないことがあったんだよね。あ、その前にちょっと撮っていい? 私もたまには親友のタグ使おうかな」
「うん! いーよー」
カメラを見ていつもの "作ったかわいい顔" を浮かべた有美を画面越しに眺めながら、私は申し訳なさそうに呟く。
「さっきの話なんだけどさ、私……裏アカあるんだよね。毎回一万くらいハート付くの」
「えっ……」
驚きで彼女の顔が歪んだタイミングで、シャッターが切れる。
いい感じに面白い顔。
「ちょ……どういう……? 一万って?」
「なんか、先月から始めてみたんだけどね。ほら、有美がいつもかわいく加工して載せてるじゃない? 私、いっつも有美に "ホントの私よりかわいく" してもらってたからさ。自分でもやってみよっかなって」
「……」
言葉を失う有美を見て微笑むと、私はレミのアカウントの編集画面を見せる。このアプリはハートの総数が分かるようになっているんだ。同じものを使っている有美は、見慣れているはず。
「ほら。結構ハート付いて、驚いてるんだ」
「……ホントだ……」
「タグって『親友』だっけ? あと、なに?」
私が問いかけると、有美の顔がさっと青くなる。
「ちょっと待っ……? さっきの写真、そのアカに載せるの?!」
「載せるよ。有美だって、いつも私の写真、勝手にアップしてたでしょ?」
「えっ! ダメ! 待って!」
「なんでー? いいじゃん。いつもの有美だよ」
投稿ボタンをタップする振りをすると、動揺しているらしい有美が硬い表情で、私のスマホを引ったくって、床に叩き付ける。
「やだなぁ……冗談だよ。自分の顔、そのまま上げるわけないじゃん」
私が言い放つと、有美が脱力してソファーに座り込んだ。
そして、その引きつった顔のまま、私を見上げる。
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