プリズム 本編

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 何でそんなことをしたか? 悔しかったから?  ……どうだろう。  ただの人間である有美が、同じ人間である私を採点する、っていうのは、どうにもこうにも、おこがましいことじゃない?  もしも、ハートの数がひとの優越を決めるというのなら、いいわよ、勝負してあげる。そう思ったの。  私はきっと、悔しかったんじゃない。  ……怒ってたんだ。ものすごく。    怒りのパワーはすごかった。頭の中に色んなアイデアが勝手に浮かんできたくらい。   "私ではない私" の設定は、都内の高級住宅街に住む、お嬢様。ハンドルネームはレミ。  色々趣味を持っていて、一番好きなのはスキューバダイビング。  ハワイに年に数回行って、のんびり過ごす。  ペットは犬が二匹。犬種はサルーキーってことにした。  別に、豪華なものと一緒に自撮りしなくても、結構な人数が釣れた。  自撮り以外の画像は、適当に海外のサイトから拾ったものを使った。  有美と違って、個人情報は一切流していない。自撮りの背景はいつも同じ、白い壁。  レミのアカウントは、一か月経たないうちに、そこそこの反応が来るようになった。   この "真希の気配を残した、私ではない別人" は、いとも簡単に有美を抜き去ったんだ。  私は、そういうの、好きじゃなかった。盛るとか。だけど、やってみて分かった事がある。  他人は、真実なんかどうだってよいという事。  そして、褒められるのは意外と楽しい、という事。  私はSNSを閉じると、何だかおかしくなって笑う。何てバカバカしいんだろう。変な世界。  その "褒められる楽しさ" に取り憑かれて、人生が狂った人がいるっていうじゃない? 有美もその道を歩むのなら、好きにしてくれていい。どうぞご勝手にって気分。  ──ごめんね。私、そんなにいい子じゃないんだよね──  そう思うと、そろそろ有美の格付けの失礼さを、突きつけてやろうと決めた。彼女のアカウントの "ユミ" だって、原型はとどめていない。あれは私の知っている有美じゃない。その点ではおあいこだ。  別に(あく)じゃないはず。  有美が言うように、アクセス数や、ハートの数が全てだというのなら。  そうだよね?
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