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そう考えたまさにその時、監視システムが送ってきた映像の一つに、黄色い歯を剥き出しにしたエイチェスが映った。耳をつんざかんばかりの咆哮が響き、映像が途切れる。どうやら、カメラが壊されたようだ。
それにしても、作物を喰い荒らし民衆を苦しめる害獣としてあれほど憎悪していたエイチェスすら利用するとは、向こうもなりふり構ってはいられないということか。
無論、こちらを混乱させるために暴れさせるだけ暴れさせた後、エイチェスは全て処分するのだろうが。
「――もう良い」
エスセヴンの返答は、部下を戸惑わせた。
「あの、猊下? もう良い、とはいったい……?」
「そのままの意味だ。もうこれ以上、無駄な犠牲は出すな。大司教として、御門守護隊に撤退を命じる」
「そんな……! しかし御門を手に入れてしまえば、彼らはまず間違い無く……」
「分かっている」
エスセヴンの声には、苦渋が滲んでいた。
「分かっては、いるのだ。だが、事ここに至っては、どのみち守り切ることは不可能だ。やむを得まい。これも、彼ら自身が選んだ道なのだ」
少しの間があった後、部下は返答した。
「……御心のままに」
エスセヴンは瞑目し、記憶を呼び起こした。かつて、デーシックスと共にエイチェスの駆除に従事していた、懐かしき日々を。そして、この結末を招いた、友との決裂のきっかけを。
いったい自分は、どこで間違ったのだろうか。
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