第三章「開放」

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第三章「開放」

「デーシックスさん、敵が撤退していきます! どうやら守り切れないと判断し、御門の防衛を諦めたようです」  仲間の報告に、デーシックスは我に返った。御門の奪取を目前にして、つい思い出に浸ってしまっていたようだ。  長かった。キリサワの日記を読んで真実を知り、そしてエスセヴンと決別したあの日から、何年経っただろうか。  苦しい生活の中で教会に不満を感じていた者は多く、“開放者”はデーシックス自身にすら予想外の速さで勢力を拡大できたが、それでも教会と対抗できるまでになるには、これだけの月日がかかってしまった。その間の民衆の苦しみを思うと、胸が痛む。    だが、それも今日までだ。  無論、新しい土地が手に入ったところで、すぐに作物が育てられるわけではないだろう。だが少なくとも、希望を持てるようにはなる。今と同じ苦しみがずっと続くわけではないのだ、という希望を。  デーシックスは自らが率いてきた仲間達と共に、御門の前に立った。開放スイッチを押す。  待ちに待った瞬間に、指先の震えが止まらない。デーシックスは、そんな自分自身をたしなめた。  まだこれからなのだ。ユーロパを出て新たな土地を手に入れたら、そこを作物を育てられる状態にして、実際に作物を植え……そう、やるべきことはまだまだある。  始まったばかりなのだ。ここで既に成し遂げてしまった気になってどうする。
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